置き去りになった犬たち

昨年、原発事故で、置き去りになった動物たちの小さな写真展がありました。感じたまま詩にしました。これを英文で海外に発信したところ、海外でひろがってます。
つくば市でも何度か朗読してくれました。私に出来ることは下手でも文字で訴えること。良かったら皆さん、この詩を使って、もう忘れ去られようとしている原発問題、もう一度考えるきっかけにしてください。





            少年と犬           鶴 文乃
        ( 福島原発事故によせてー2)

散歩に行くと、ぐいぐい僕を引っ張ったシェーパードのマーク
シャープな顔立ちと背中にすいっと通った黒い毛並み
まるでウルフのようだった
僕が叱られて泣いていると、ぺろぺろと涙をなめてくれたやさしい犬


川底の石ころが透けて見える川面に、雪解け水が流れ込み
川岸に柔らかな新芽が出始めた、2011年3月11日午後2時46分
大地が揺れて、原子力発電所が壊れた


僕は悲しい別れをひたすら隠して
笑顔でマークの鎖を解いてやった
うれしそうに走り回っていたお前
気がついたら、空っぽの家
捨てられたマーク


あれから、お前は何を食べてどこに居るのだろう
この一年半、お前のことを忘れたことはない
頼むから何とか生きていてくれ
今度巡り合った時、お前が怒り狂って狼となって、僕に歯向かってきたとしても
それは仕方がないこと


とにかく、僕はマークの居る故郷に帰りたい
それが叶うなら、エアコーンも電子レンジもテレビもいらない
例え不便な原始の生活になっても、僕はかまわない


そして、きれいになった空気を胸いっぱい吸って
マークと一緒にあの野山を駆け巡りたい
その時まで、マークよ、生きていてくれ!



(置き去りされた犬たちを見て、2012年9月28日記)