Wine-glass

 気が付けば師走も半ば、「ばってんネットワーク」の発送に目処が付き、Tさん夫妻を招いてホームパーティーを開いた。Tさんは5年前事故で頚椎損傷で、車椅子生活になってしまった。2年前に来てくれた時は、PCで仕事ができるようになっていた。しかし、我が家の玄関の二段の階段は、車椅子に乗ったまま、「よこらしょ!」とみんなで抱え上げた。今度は、車椅子の機能がよく、彼の奥さん、Sさんが一人でスイと運び上げた。
いいかげんな私の手料理は、タイ料理のサラダ、イタリア料理の海老のグラタン?クリスマスを意識して鶏肉の照り焼き、筍、ごぼう長崎産の練り製品のきんぴら、五目飯などと、国籍不明のメニュー。 肝心のフランス料理は、主催者側の好みが合わなくなってパスにした。
連れ合いがフランス滞在中、二周りも若いT夫妻とのフランスのワイン産地を小旅行した思い出がある。当時、Tさんはパリの国際機関で仕事をしていて、休日にはマイカーで北欧まで夫婦でドライブをするという活発な動き方をしていて、とても素敵だった。フランスの由緒あるワイン工房で、おいしいワインを飲み比べて居た頃、今の状況など想像すらできなかった。
事故後、ワイングラスでワインを飲んだことがないという。ワイングラスを指で挟んで、口元まで運び傾け口に流し込むという、健常者にとっては、ごく当たり前のことがむずかしいという。
「もう少し、足が大きいグラスならいいかも」と、安いグラスを持ってきて、シャブリを少し注ぐ。「ちょっと、むり」「少し休んでから、チャレンジね」しばらくして、やおらグラスを持ち上げ、ワインを飲んだ「やった!、できた。きょうは、一人でワインを飲めた記念日だ!!」
「乾杯!乾杯!」この次は、玄関のあの二段の階段を杖をついて上がれるようにがんばるそうな。つる宅に呼ばれる日を目標に。そう言われると私も、手足が痛いなどと言えなくなってきた。